表紙写真:沖縄県南城市久高島にて撮影
libido:SPECIAL
#2
岩澤哲野/大蔵麻月/大橋悠太/緒方壮哉/鈴木正也
〈libido:青い鳥〉
沖縄公演直前特別座談会②
利賀演劇人コンクールより2年。
ノーベル文学賞作家メーテルリンクの代表作にして、不滅の夢幻童話劇「青い鳥」。
新体制のlibido:にて再び挑む!
libido:は今年度の元号の切り替えに重なり、千葉県松戸市を拠点とし集団化する運びとなった。
集団となり初の上演作品は、2017年の利賀演劇人コンクールで初演し、優秀演出家賞二席を受賞した「青い鳥」。
代表の岩澤がソロユニット時代に発表し、大きな転機になった作品でもある。
令和に突入し、世界が今なお大きく変動する中、ぼくたちは一世紀以上前に描かれた“幸福”についてのテキストを上演する。
今回、そんな時代に集団化するlibido:と「青い鳥」についての座談会を設け、上演場所である沖縄、東京、茨城、そして家族の話をテーマに、ぼくを含めメンバーの岩澤哲野、大蔵麻月、大橋悠太、鈴木正也に語ってもらうこととなった。現代における幸福とは一体なんなのだろうか。
本企画は仮に「libido:SPECIAL」と題し、今後も内容を変え、libido:のコンテンツとして配信したいと考えている。
(構成・進行=緒方壮哉)
※こちらの座談会は#1と#2の二部構成になっているので、#1をご覧でない方はぜひ下記ページよりアクセスください。
100年前に描かれた幸福とそのゆくえ/場所をめぐって
緒方 少し話を松戸から進めましょう。これまでlibido:はなにかっていうことと集団について、そして地方や環境について話し、その根本に松戸という拠点がある。
そのうえで、今年上演する「青い鳥」は、ぼくらにとってさまざまな意味でのスタート作品ですよね。
岩澤 ですね。
緒方 その立ち上げの場所が沖縄になります。それで、今年の7月にリサーチとして、はっしー(大橋)以外の4人で行ったじゃないですか。
大橋 行きたかった。
緒方 ですが、まだ「青い鳥」と沖縄という場所がまだ繋がりきってない部分もあると思うんですよ。
岩澤 うんうん。
緒方 行けなかったはっしーを交えその話ができたらと思ってます。
大橋 気になる。
岩澤 ぼくもまだ整理しきれてないので、ざっくりになるかもしれないですけど。
鈴木 写真も交えて話しましょうよ。(写真①)
写真①沖縄県南城市に位置する久高島の港風景
岩澤 まず「青い鳥」っていうのは自分にとっても手応えがあって再演したい思いがあったけど、利賀村っていう場所だからつくれた作品でもあった。だから東京の小劇場で上演するイメージがわかなかったんだけど、沖縄に銘苅ベースができて周辺の人からもオススメされたんだよ。
そこでまず沖縄っていう場所を意識し、ネットやメディアの情報から「青い鳥」との関連性も想起することができたんだよね。
中でも辺野古移設をめぐる話題として、元山仁士郎さんと嘉陽宗一郎さんの意見交流に衝撃をうけた。複雑な環境のなかで、いかに対話を可能にしていくことができるか。そこに幸福に関する問題意識を見た気がするんだよね。
緒方 今の話に加えて話すと、“青い鳥”って実在の生き物としての鳥ではなく、概 念的なものじゃないですか。
そして、物語としては“幸福“の象徴としての青い鳥をチルチルとミチルの兄妹が 探しに行き、終盤で実は青い鳥=幸福は身近な場所にあったんだと一般的には解釈 されていますよね。テツさんの今の沖縄の話は、現代における幸福のありかについて再検討し、さらに沖縄の一連からその土地や現実について考えるきっかけになったのだと受け取りました。
その上で、利賀村という上演場所から、沖縄という場所へ移り変わることについてはどうですか。
岩澤 利賀から沖縄の話をすると、やっぱり利賀では東京という場所を意識してつくってた。“他方から都市”をみるという意味で沖縄で上演することとの関連性はある。
もともと東京を意識して作った作品だったから東京で再演するのは気持ち悪かったんだよね。(再演)するけど。
緒方 必然的に場所が東京以外になったんですね。作品にそもそも場所のイメージが絡んでいると。 ぼくぶっちゃけ、沖縄と青い鳥の関連性ってあんま腑に落ちてなかったんで(沖縄で)やるってなったとき、どういう関連性なんだろうとは思ってたんですよ。
大蔵 そうなんだよね。
緒方 7月にリサーチ行ったじゃないですか。その時に、ひめゆり平和祈念資料館や沖縄県平和祈念資料館に米軍基地など、色々な場所(写真②、③、④)に行って、 やっぱり人って色々な物事を忘却してしまうなと思ったんですね。幸福なことも不幸なことも忘れてしまう。
だからそれらを記憶する装置が必要で、それが文化であったり物語であったりする。 幸福を模した“青い鳥“もその装置なんじゃないかと思ったんですよ。沖縄もある視点から見れば忘れられてしまっている場所だと思うし、文化の差異もある。沖縄を観光して改めて考えさせられたんですよね。
写真②沖縄県平和祈念資料館敷地内の「平和の礎」。思わず息をのむほどの慰霊碑が立ち並ぶ。展望台から、平和の礎を一望することができる。
写真③「平和の礎」内に設置された「平和の火」。広島市の「平和の灯」、長崎市の「誓いの火」の火を合わせ、毎年6月23日の慰霊の日に火が灯る。
写真④沖縄県名護市辺野古の辺野古社交街。通称「アップルタウン」。1957年の宅地開発によって栄え、米軍中佐の功績とともに名付けられた。かつての繁華街は沖縄らしい平屋住宅と国際レストランやバーが立ち並んでいた形跡があるが、いまは民家などになっている場合が多い。
鈴木 そういえば、沖縄ではお墓が海側を向いてたんですよね。
大橋 へえ〜。
大蔵 不思議な感覚だったよね。
鈴木 僕はそれこそ昨日みんなで見に行った「五月九月」(沖縄の組踊300周年記念 作品。沖縄の方言で”ぐんぐぁちくんぐぁち”と読む)のラストの城主のシーンで感動したんですよね。ひとのあたたかさを感じたり、ひとつの“国”だったんだなと。
緒方 だからこそ沖縄に限らず、異なった歴史や文化を歩んできた場所で幸福をテーマにした「青い鳥」をぼくらが上演することって色々考えさせられる。たとえば 韓国公演では、韓国の戯曲を扱いました。さらにそのテキストは、明らかにいまの朝鮮半島の歴史を根源的に描いていた。
岩澤 それこそ沖縄を選んだ意味として、韓国での上演を経たのは大きい。現地に 実際に行ってみて知ったことや違いについて触れた時に、今思えば、沖縄の歴史性 についても無意識に興味を抱いていたのかもしれない。メーテルリンクもベルギー で生まれフランスに移動して、自国について憂いながら「青い鳥」を書いた。地域 を移動していくことに色々つながることがあるのかなと。
大蔵 いま思ったんですけど、韓国で上演した時に、すごい緊張したんですよね。 日本で生きている私たちが、韓国の戯曲を上演することが受け入れられたのかなっ て。その上で、今回「青い鳥」を沖縄に持っていくのってまた緊張するなあって。
岩澤 そうだね。でも今回、沖縄で立ち上げる作品を他の場所に持っていくっていうことが大切だなって思ってる。
大蔵 わたしはその上でどんな意見を持ってくれるんだろうなってことに興味あるかも。
緒方 それが対話になったらいいですよね。
鈴木 でも改めて、今のうちに座談会として作品の話ができるのもいいですね。
大橋 そうそう、聞けてよかった。
鈴木 ぼく知らなかったこともあるから。
大橋 (沖縄で上演する)経緯とかね。
岩澤 おれそういうとこあるんだよね。全部話したつもりになっちゃう笑。
一同 笑
緒方 すべて話せばいいってもんでもないですが、作品については説明できたほうがいいし、共有したほうが作品をつくる上でいいこともあるよね。
鈴木 座組のみんなに作品について話したほうがいいことまだまだありますよ笑。
大橋 ドビュッシーの“あの曲”からはじまる意味とかね。
鈴木 そうそう。
緒方 話変わるけどリサーチに行っていないはっしーは、来月やっと沖縄の地を踏むわけじゃない?
大橋 行っとけばよかったね〜。
一同 笑
大橋 後悔した〜。
緒方 俺がフライト当日に寝坊したのとか知らないでしょ笑。
大橋 知らない。
岩澤 ほんと焦った。
大橋 間に合ったの?
緒方 間に合った。
岩澤・鈴木 ぎりぎりよ。
大橋 ええ、、、。
緒方 結構な距離走って、死ぬんじゃないかと思いましたね。
大橋 笑
大蔵 でもそれを微塵も感じさせないですよね笑。(写真⑤)
写真⑤フライト直前
鈴木 でも晴れてよかったですよね。
大蔵 よかった〜。
作家に悩む/知る
緒方 ぼくの遅刻話になっちゃいましたが、沖縄での滞在話やエピソードは次の機会に持ち越しましょうかね。沖縄を皮切りに、さらに「青い鳥」の話ができればと思います。
テツさんは今年度から急な坂スタジオのサポートアーティストに選ばれ、そこでの個人活動として「メーテルリンクについて悩む会」(以下、悩む会)をスタート し、一年かけて一人の作家を掘り下げて思考、実践をしていますよね。
libido:って劇作家のいない集団で、基本的には既存のテキストをつかって上演するじゃないですか。その上での急な坂での活動もあると思うのですがどうですか。
岩澤 「悩む会」に関しては、ぼくが今のところ古典戯曲をあつかうことが多いのだけど、以前、岸田國士の「紙風船」を上演した時に作家について意識することがあった。さらに木ノ下歌舞伎に関わっている中での影響も大きい。木ノ下先生が作品を作る際に、作家性や時代性についてレクチャーしてくれるんだけど、それが作品を豊かにもする。やっぱり、作家やその文脈を知ることは重要だなと改めて気付いた時に、作品(戯曲)だけではなく、作家についても調べることが必要だな って改めて思ったんだよね。『青い鳥』(初演)ではそれがなかなかできなかったから、改めてリクリエーションするにあたって作家から考えられたらと思い、悩む会をはじめたっていう経緯があるんですよ。
緒方 ぼくがおもしろいなって思うのは、古典戯曲を書いた作家って当然たいていの人が亡くなってしまっているけど、その作家の作品を上演することは可能じゃないですか。
その上でその作家を知るというのは、自分たちの生きている時代も含め 相対的なテキストとして扱うことができる。たとえばチルチルとミチルの関係性って兄のチルチルが基本的に喋り、行動し、妹のミチルは黙って後ろからついていく。 この関係性ってメーテルリンクの書籍だけ読み漁っても分からない部分がある。
でももっと単純な兄妹=家族にしぼって考えてみたりすると理解できることもあって 「青い鳥」っていわゆる少年少女が虚構なのか現実なのかわからない世界に行って 帰ってくる話で、二人が現実の擬似的な存在に出会ったりしながら旅を経て、家族 や幸福の認識が変わったんだと読むこともできる。
ぼくには二人の兄妹が、家族や幸福のテーマパークに行って帰ってきた話にも読めるんですよね。その上で、「青い鳥」にはそういった想像の中で演じたりできる幅があるなと。
岩澤 そうだね。悩む会の話をさらにすると、これまで二度開催して、一回目がメーテルリンクの処女詩集「温室」をあつかい、二回目はノーベル文学賞にも導いたっていわれてる博物誌「蜜蜂の生活」をあつかったんだけど、作家のテキストをそのまま信用しすぎることも危険だってことに気づいたんだよね。
一同 笑
岩澤 というのも2回やった中で、メーテルリンクのテキストの中に悩み/困惑みたいなものを見つけて、それが作品に豊かさを生んでいる一方で、その中に絶対的な真理があるって思いすぎるのも危険だなと。それに気づいたことも大きな収穫だったなと思う。
緒方 あれだけ作家について触れるってこともなかなか無かったですよね。
鈴木 たしかに。でもほんと「蜜蜂の生活」にもいろいろ書いてあるけど、よくもわるくもメーテルリンクならではの“蜜蜂”が書いてあっておもしろいですよね。
緒方 アクロバティックな“蜜蜂論”だよね。あくまで作家がかいた博物誌というか、蜜蜂に関係ない瞬間とかめっちゃある。だから悩む会でやろうとしたことって、作家との複雑なコミュニケーションですよね。
大橋 ぼくは悩む会に全部参加してるんですけど、メーテルリンクの想像力の働かせ方はすごいんですよ。穴がいっぱいあるんだけど、読み手に想像させる余地がある。
大蔵 わたしは一回目の「温室」をあつかったときに悩みすぎて、みんなで動物園にいったんですけど、そこである鳥が同じ場所を行ったり来たりしていて、その様子をみた時になんとなく「メーテルリンクの世界はこれかもしれない」って思ったんですよね。
家族的コミュニケーション
緒方 悩む会でメーテルリンクについて触れてきた上で、「青い鳥」って100年以上前の話であり、今になっては冒険ファンタジーもののようなテンプレ的な部分もありますよね。でもメーテルリンクらしい変な話でもある。そういった意味でも「青い鳥」を上演するっていうことに対してどういったイメージがある んでしょう。
岩澤 やっぱり改めて悩む会を経て思うのは、自分の作品にしたいってことかな。 メーテルリンクのテキストに対して自分のやりたいことを大切にしたいって改めて思ったんだよね。どれだけ自分たち(現代)のはなしにできるかっていうことをいままで以上に、明確に上演したい。
それでぼくは青い鳥の中でミチルに対してすごく興味があるのね。ミチルのキャラクターとしての謎さが初演を決めた時のきっかけだったんだけど、それってさっき(緒方)壮哉が家族の話とか兄妹の話をしていて気付いたんだけど、ぼく妹が二人いてその ふたりと圧倒的にコミュニケーションが少ないのね。たぶん、ミチルへの興味はそこからきてるんだと思う。これからの稽古でその点もヒントになってくるのかなって。
緒方 ではミチルを軸にした物語になる可能性もあると。
兄妹=家族に関して、なにかのきっかけで考えてしまう経験ってあるもんね。
鈴木 東京で(新潟県出身)妹と二人であったりすると、気持ち悪いけど安心したりもする。そこではじめて兄妹だってことを認識したりもするよね。
大蔵 実家であうのとはまた違ってね。
鈴木 そうそう。二人で立川でご飯食べて、イケアに行きたいって話をして行った んですけどこれって実家にいるとなかなかそうならない。
岩澤 行きたいわ〜。憧れる。
大蔵 笑。
緒方 それってぼくと正也が地方出身っていうのはありますよね。
鈴木 あれ、libido:って全員きょうだいいます?
大蔵 みんないるんだよね。
大橋 ほえ〜。
鈴木 話します?
大蔵 話すけど、家で毎日会うからね。
鈴木 そっか。そうですよね。
緒方 他者を通して家族ってなんなのか考えることもありますよ
ね。
鈴木 うんうん。
岩澤 家族について考えるのはおもしろいかもね。
緒方 そうですね。それに青い鳥って肉親としての家族がメインではなく、肉親で はないんだけど家族的なものと旅する話じゃないですか。犬とか猫とか、なんなら パンとか身近なものと連帯して様々な場所で、虚構的な祖父母や母親と出会ったりする。青い鳥は肉親としての家族とそうではない家族の話として読み取ることもできる。
岩澤 そうだね。それはすごくしっくりきている部分もある。
libido:青い鳥
緒方 この辺でリクリエーションする上での意気込みなんかどうでしょうか笑。
大蔵 意気込みかあ、、、、。
岩澤 いいんじゃないおもしろいかも。
鈴木 意気込みというかなんですけど、今日稽古していた「木こりの小屋」 のシーンあったじゃないですか。
岩澤 うんうん。
鈴木 その時にテツさんがチルチルとミチルの関係性をより際立たせたいみたいな はなしをしていて、このシーンって初演の時には泣く泣くカットしたじゃないです か。このシーンが復活するのって上演する時期(青い鳥はクリスマスの前夜からは じまる)的にも良いし、個人的にも好きなシーンだから、完全版としてつくれるの は楽しみだなって思いました。
岩澤 うんうん。いいね。ぼくの意気込みとしては、客演のひとたちもいるけど今 回は libido:が集団になってから初の作品だからこそ、さっきの家族の話じゃない けど、メンバーや今回集まった客演、スタッフとの関係性を大事にしたいし、それ を「青い鳥」とうまくリンクさせながら上演したい。だからこそこけたくないよね 笑。
一同 笑
緒方 ぼくらも大きな変化はないけど、立場が変わりましたからね。こんなに稽古 場に長くいる経験ないもんね笑。
大橋 そうだね。ぼくとしては今日のこの場でいろいろ知れたことがあったし、気 がかりだった沖縄での上演に関してとかが回収できたこともあるなと。
大蔵 客演のみんなにもいろいろ共有しないとね。
岩澤 ですね。
大蔵 わたしはね、子供に楽しんでもらえたらなと。
大橋 そうですね、それはいい。児童劇でもありますしね。
岩澤 そういう意味でも「青い鳥」が、集団になって最初の作品でよかったかもね。
緒方 そうですね、“リビドー“って名前なのが少し気がかりですけど笑。
岩澤 そう、だからリビドーって概念をくつがえすっていうのを目
標にね。
緒方 いま植え込むって言うかとおもってドキドキしましたよ笑。
大蔵 以上です笑。
緒方 ありがとうございます。今日はlibido:や青い鳥について、それらをめぐる場所や上演、今後キーワードになるかもしれない“家族“についても話していただきました。ぼく個人としては、100 年以上前に書かれた「青い鳥」はひととそうでないものが連帯しイデア的なもの、もしくは原作で言うところの世界の真理/幸福の 象徴である青い鳥を探し、旅する物語だと認識してます。
2 人の兄妹は虚構と現実が入り混じるその世界で何を経て何を体験するのか。そして、それは上演の中で明らかになるのでしょうか。今日はツアー最終地である茨城 についてはあまり言及できませんでしたが、それはまたの機会に持ち越すことにしましょう。ぜひ様々な方が、沖縄、東京、茨城の各公演を目撃くださると幸いです。本日は長い時間、お付き合いいただきありがとうございました。
収録=2019年10月18日 神奈川、某所
撮影=libido:
編集・構成=緒方壮哉
#3をおたのしみに!(12月に配信予定)